変わりゆくものと変わらざるもの
-『飲み水の安全と安心』に思う-
財団法人 秋田県総合保健事業団 管原昇
6月に開催された第1回オートアナライザーシンポジウムでは、改正水道法の試験方法の問題点等について話をする貴重な機会を与えていただきました。 今回の改正では、固相抽出やクロマト分析法等が新たに採用され、従来の吸光光度法が極端に制約を受けた内容 となっています。その中でシアン、陰イオン界面活性剤、フェノール類の3項目については、3年間限定という条件付きで流路型吸光光度法が採用されています。また、臭素酸、シアンの項目には、I C-ポストカラム吸光光度法が、非イオン界面活性剤には、固相抽出-吸光光度法がそれぞれ採用されました。 その改正の中で、陰イオン界面活性剤及びフェノール類についての標準の定義が変ったことが特筆されます。陰イオン界面活性剤については、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸(LAS)とその分岐鎖を含むスルホン酸を定量することで、固相抽出-HPLC法が採用されました。合成洗剤の主成分には、スルホン酸塩のほかに硫酸エステル塩、リン酸エステル、カルボン酸塩(総称としてメチレンブルー活性物質)があり、今回はその約50%のシェアを占めるスルホン酸塩だけが陰イオン界面活性剤として定義されました。つまり、市場に半分出回っている他の主成分である硫酸エステル塩、リン酸エステル、カルボン酸塩によって水道原水等が発泡し、それが浄水過程に混入してきた場合には、現行の試験方法では、陰イオン界面活性剤は『検出されない』という結果になります。 また、フェノール類の標準は、フェノールと塩素消毒により生成するクロロフェノール、ジクロロフェノール、 トリクロロフェノールの仲間に限定されており、従前から含まれていたクレゾール、ナフトール、カテコール等が外されています。これもまた水源にクレゾール石鹸の廃液やナフタリンの錠剤などが投入され、フェノール臭 がプンプンしていても、水道水からはフェノール類は『検出されない』という結果になります。 過去の上水試験方法では、合成洗剤であればメチレンブルー活性物質を、フェノール類であれば、クレゾールやカテコールなどを含めたトータルを定量する試験方法でした。当然明細が何であるかは分かりません。ただ「飲み水の安全と安心」を考える場合、汚染の有無の早期発見が優先であり、原因物質や汚染源の特定は二次的な対応 になろうかと考えます。シアンとて同じです。 固相抽出-クロマト分析法等は、精度やバリデーショ ンが格段に向上していますが、大切なものを測り忘れている点では、大いに問題ありと考えます。従来の用手法での吸光光度法は、有機溶剤等による試験室の汚染、検査員の健康被害を防ぐという観点から、淘汰されてゆく試験方法です。 しかし、流路型吸光光度法のように密閉型のチューブの中で、少量の試薬により、迅速に測定結果が得られる手法は、私共のような“多検体処理”の試験機関にとっては、魅力以外の何者でもありません。しかも時間のかかる固相抽出操作なしで、基準値の1/10を確保できるとすれば、これ以上の選択肢はありません。 科学技術の発達とともに、機器分析法がめざましい進歩をとげています。これからもどんどん新しい理論に基 づいた試験方法が採用されてゆくことと思われます。しかし、その進歩の中で、“飲み水の安全と安心”の原点だけは変わることなく国民に提供されてゆくことを期待しています。
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近赤外分析計 醤油成分分析システム
SpectraStar2400 |
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SpectraStar(スペクトラスター)2400は、UnityScientific社(米国)で開発された近赤外分析装置です。 この装置をベースに、ビーエルテックが開発した醤油成分分析システムをご紹介致します。 |
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ドクトル海彦のオートアナライザーワンポイントアドバイス
今回から数回に分けてワンポイントアドバイスは分析前の試料(海水を主とした)の取り扱いについて、 ビーエルテック株式会社のテクニカル顧問ドクトル「海彦」氏が有用な情報をご提供いたします。 主な内容は採水・前処理方法・保存・コンタミネーション・データの見方等です。
水分析、ここが大事【採水】
環境水の分析の第一歩はなんと言っても“あリのままの水”を採取することです。ただ、これが難しいのです。採水装置の材質などによっては装置からのコンタミが考えられるからです。 最良は“ガラス製”と言われていますが、これだって万全ではあり ません。ある種の成分の収差が考えられるからです。金属製の容器からは重金属類などの溶出が懸念され、アクリルなどのプラスチック類でも可塑剤の溶出があります。 これらの問題点を少なくするには(無くすることは不可能に近いと言われています)分析目的成分に応じた機能・材質の採水器を用いること、そして目的に応じた洗浄を施した採水器を用いることが肝要です。 採水は調査企画者が自己責任において実施される筋のものですが、分析の専門家として皆様から注意点を示しておくのも良いでしょう。活字になったデータは勝手に一人歩きしますから。 一般に使用される採水器は: ハイロート採水器1) (ガラス製、強度に難点あり、表層付近の採水に適する) バンドーン採水器2)(アクリル製、水置換性に優れ中層用として汎用されている) 北原式採水器2)(表中層用として手軽に利用できる。水置換性に難点) リコーB号透明採水器3)(北原式よ り水置換性に優れ、表中層用として汎用されるようになった。スカート部分をステンレス製に交換するとさらに良) ニスキン採水器4)(水置換性に優れた採水器、深層用としても汎用されている) GO-FLOニスキン採水器4)(表層水の汚れに晒されることなく中底層水採水可)、ポンプ式採水器2) (ポンプ部分からコンタミの恐れ。多層大量採水に適する。) 真空ポンプ式採水器2)(ポンプ部分からのコンタミがない、表層・底層域での多層少量採水に適する) 着底式バンドーン採水器5)(海底着底と同時に採水する)などです。 また無菌的に採 水する装置1)も多く考案されています。目的に応じた採水器を利用されると良いでしょう。 筆者が30数年間にわたって浅海調査用に利用した採水器は表中層水採水にはステンレス製スカートを装着 したリコーB号透明採水器、底層水採水には着底式バンドン式採水器です。いずれの採水器とも軽量で簡便に使用することが出来ます。 殊に着底型バンドン採水器は海底付近(普段は海底上1m)の試水を海底土を巻き上げることなく正確に採取できる優れものです。一度おためし下さい。
ドクトル海彦 |
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発行/ビーエルテック株式会社 |