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近赤外分析による乳牛用飼料の栄養成分分析の新たな展開

近赤外分析による乳牛用飼料の栄養成分分析の新たな展開

元 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
畜産草地研究所 畜産研究支援センター 農学博士 甘利雅拡

1.はじめに

近年、我国の酪農は、輸入飼料の価格高騰により厳しい経営が強いられている。このような状況の中で自給飼料の有効活用、効率的な飼料給与による安定的な乳生産を進めていく必要がある。そのためには、給与飼料の栄養成分を正確に把握し、飼料給与診断に活用させていくことが重要である。乳牛に給与する牧草等の粗飼料は、品種、生育期、土壌条件等により成分含量・栄養価が大きく変動するため、酪農家が給与している粗飼料そのものを個別に評価する必要がある。これら個別の粗飼料を分析し、飼料給与診断に応用する一連の過程を「フォレージテスト」と呼ぶ。その場面では、粗飼料の主要成分、栄養価を正確にしかも迅速に測定し、データを提供することが求められる。

近赤外分析法は、迅速分析に優れていることからフォレージテストの主要な分析法として、1980年代に都道府県の飼料分析センター等に導入された。しかしながら、近赤外分析の機器は性能が向上し、新しい解析法も多く開発され飛躍的に進歩を遂げているが、家畜飼料分野での近赤外分析法の利用は、長期経過により検量線の未更新や新飼料資源への対応の未整備等が大きな課題となっている。そこで、フォレージテストの体制強化、酪農における飼料給与の精密化を促進するため、「フォレージテスト新システム構築事業」(財団法人全国競馬・畜産振興事業)が実施された。

2.「フォレージテスト新システム構築事業」の概要

本事業は、平成24年度~26年度に(一社)日本草地畜産種子協会が事業主体となり、近赤外分析の作業を農研機構畜産草地研究所が受託し実施した事業である。多くの道県および畜産関係機関の飼料分析センターでは、導入当初に作成された検量線が未だに飼料分析に使われている。牧草やとうもろこし等の飼料作物では新品種が普及し、稲発酵飼料(稲WCS)等の新たな飼料素材も導入され、また、乳生産向上のために重要な指標であるデタージェント分析法による繊維質分画の導入により、従来の検量線ではその機能を十分発揮できない状況にある。そこで本事業では、これらに対応した汎用性と精度を向上させた検量線への改訂を行い、データを公表し全国の飼料分析センターへ検量線データを提供して新たな分析システムを構築することを目的としたものである。

3.事業の具体的な内容

1)供試試料と化学分析

全国の飼料分析センターが保有する試料を収集した。その内訳は、牧乾草(161点)、牧草サイレージ(180点)、トウモロコシサイレージ(125点)、稲WCS(208点)、ソルガムサイレージ(148点)、飼料用玄米(118点)、大麦(164点)である。化学分析は、一般成分分析法による水分、粗たんぱく質、粗脂肪、粗灰分およびデタージェント分析法による中性デタージェント繊維(aNDFom)、酸性デタージェント繊維(ADF0m)とした。

2)近赤外分析

試料は、1mm粒度の粉砕試料を用い1100nm~2500nmの範囲について反射スペクトルを測定し、PLS回帰分析法(Partial Least Square Regression)により検量線を作成した。

3)検量線の分析精度

検量線の分析精度は、検量線における相関係数、標準誤差(SEC)を基本とし、検定用試料群における相関係数、回帰推定からの標準誤差(SEP)、RPD値(SD/SEP in prediction set)から判定した。本事業で作成した検量線の分析精度は、実用レベルで利用できるRPD値2.3をすべての成分で上回った。これらの検量線は、従来の検量線と比べ高い分析精度を持ち、特に、これまで精度が低かった粗脂肪、粗灰分、ADFomでは、実用レベルで十分信頼できる精度が得られたことは大きな成果といえる。各種飼料の詳細な分析精度については、(一社)日本草地畜産種子協会のHPまたは「飼料分析のための近赤外分析マニュアル」を参照されたい。

4)スペクトルデータおよび検量線の提供

検量線は、バイアス補正による移設またはスペクトルデータ(JCMファイル)での提供とした。移設の作業手順については、事前に開催した研修会で指導し、技術的な継承を確保するためのマニュアルを執筆した。飼料分析センターへの検量線またはデータ提供は、30道県の36場所に及んだ。その内訳は、道県の公的機関28場所、独立行政法人1場所、国立研究開発法人1場所、農協系機関3場所、飼料会社3社であった。

4.終わりに

近赤外分析は多くの分野で広く利用され、通常、検量線はユーザー独自で開発し利用している。本事業のようにデータや検量線を無償で公開・提供している例はほとんどない。その意味では、本事業は画期的な試行といえるであろう。特に、近赤外分析が持つ化学分析との差異、検量線の適合性等の確認・問題点の有無などを広範囲の機関でチェックでき、これらに基づくバージョンアップや修正等にも役立つものと考える。
フォレージテストでは、機器の老朽化、技術的な継承体制の弱さなど多くの問題を抱えており、安定的な飼料分析センターの運営を推進するため、今後も新飼料への対応、定期的な分析精度の確認とバージョンアップ、より細分化した飼料成分の検量線の作成、分析担当者への研修等を充実させていくことが重要と考える。

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