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流れ分析法による水質試験方法 JIS K 0170の確認・検証実験

ビーエルテックニュース

流れ分析法による水質試験方法 JIS K 0170の確認・検証実験

横浜国立大学 名誉教授 中村栄子

2011年3月にJIS K 0170 流れ分析法による水質試験方法が 公示された。その第1部にはアンモニア体窒素、第2部には亜硝酸体窒素及び硝酸体窒素、第3部には全窒素、第4部にはリン酸イオン及び全リン、第5部にはフェノール類、第6部にはフッ素化合物、第7部にはクロム(Ⅵ)、第8部には陰イオン界面活性剤、第9部にはシアン化合物がそれぞれ規格化された。この規格では、一つの測定項目に3~4種類の方法が併記されている。これは、原案作成時の次のような原則によったためである。

フローインジェクション分析法(FIA)と連続流れ分析法(CFA)の 両方を併記する、分析原理、試薬、条件などについては JIS K 0102 の条件であることが望ましい、分析原理、試薬、条件などが JIS K 0102 と異なるISO規格も取り上げる、JISやISOの規格にないが環境分析現場で使用されている方法も取り上げる。

このような原則で規格化されたため、環境基準や排水基準の測定法(以下、公定法と記す)に多く引用されている工場排水試験方法 JIS K 0102 と前処理や発色の条件が異なる場合がある。これらについては、公定法との比較実験が必要と考える。

私の研究室では、JIS K 0170 のいくつかの項目について確認実験や検証実験などを行っており、これまでにシアン化物イオン、フッ化物イオン、クロム(Ⅵ)のFIAでの検討結果が得られている。その結果、シアン化合物では、流れ分析へ適用するための前処理蒸留器の小型化を達成し1)、フッ化物イオンでは、アセトンを含まず、フッ化物イオンを0.5mg/Lとなるように添加したアルフッソン溶液を発色試薬溶液として用いることで、0170-6よりも高感度化できることを見出した2)。また、クロム(Ⅵ)の検討では、アセトンや酸濃度を0170-7よりもそれぞれ1/10、1/3に低下させたジフェニルカルバジド溶液を用いても0170-7と同等の感度が得られることを見出した3)。

現在は、CFAによるフッ素化合物の蒸留前処理について検討を行っている。フッ素化合物はフッ化物イオンの他、鉄やアルミニウムとのフルオロ錯体等、水中で様々な形態で存在しており、公定法では、試料の微アルカリ性での濃縮-硫酸・リン酸酸性での水蒸気蒸留の前処理後、得られた留出液に対してランタンアリザリンコンプレキソン(La-ALC)吸光光度法を行うことになっている。公定法での前処理は煩雑であり、操作の自動化の 要望が強い。一方、JIS K 0170-6 蒸留・La-ALC発色CFAでは、流れの中で蒸留する方法が規定され、蒸留操作が自動化されている。しかし、CFAでの蒸留は直節蒸留であり、公定法の水蒸気蒸留とは異なっているため、フッ素化合物の蒸留状況の検証が必要である。

このために、まず、数種のフッ素化合物を用いてCFAでの蒸留状況を検討した。CFA装置としてはBLTEC製Auto Analyzer 3を用いた。送液流量はペリスタポンプにかけるチュー ブの太さを変えて調整した。蒸留試薬として硫酸(0.9mol/L)- リン酸(0.15mol/L)混合溶液、ヘキサフルオロケイ酸の捕集液としてトリトンX‐100溶液(0.5%)、発色溶液としてアルフッソン溶液(アルフッソン5g/L、酢酸1.3mol/L、イミダゾール20g/L、フッ化物イオン0.5mg/L、アセトン25%)を用いた。空気分節後の蒸留試薬(流量1.2ml/min)の流れに、試料を0.96ml/minで送液し、これらをガラス製反応コイル(内径2mm、長さ50cm)内で混合させた。これをシリコンオイル反応釜(145℃)中のガラス製蒸留コイルに送液して蒸留した。蒸留コイルからの蒸気は水冷管-空冷管で液体となり、この留出液の一部を捕集液(流量 0.1ml/min)の流れと混合し、ヘキサフルオロケイ酸を捕集した。 この溶液中の分節空気を除いた後、空気分節された発色溶液 (流量0.8ml/min)の流れに、流量0.6ml/minで送液し、ガラス製反応コイル(内径2mm、長さ200cm)内で混合してフッ化物イオンとLa-ALCとの複合錯体を生成させた。検出は620nmで行った。試料溶液として数種のフッ素化合物溶液を用い、蒸留温度等を変えて、蒸留、定量を行い、蒸留状態を検討した。フッ化ナトリウム溶液(Fとして0.2~1mg/L)を用いて蒸留温度を 115~145℃と変化させたところ、いずれの濃度でも135℃以上 で一定の吸光度が得られたことから、蒸留釜の温度は145℃が適切と考えられた。Fとして0.2~1mg/Lのヘキサフルオロケイ酸ナトリウム溶液、ヘキサフルオロリン酸カリウム溶液、テトラフルオロホウ酸カリウム溶液を用いた検討では、前者二つの場合はいずれの濃度でもフッ化ナトリウム溶液とほぼ同じ吸光度となったが、テトラフルオロホウ酸カリウム溶液の場合はフッ化ナトリウム溶液の場合のそれより低くなった。

1)分析化学,61,953-957(2012)
2)J. Flow Injection Anal.,29,17-20(2012)
3)分析化学,62,31-35(2013)

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