海洋生物の必須元素としてのケイ素と鉄

12.01

ビーエルテックニュース

海洋生物の必須元素としてのケイ素と鉄

元兵庫県水産技術センター所長 眞鍋武彦

地球を構成する元素で最も多いのが鉄で約35%、続いて 酸素約30%、3番目に多いのが硅素約15%であり、マグネシウムを加えた4大構成元素で地球の90%以上を占めることが知られている。地表近くの構成元素を表したクラーク数によると、最も多いのが酸素49.5%、硅素25.8%、アルミニウム7.6%、 鉄4.7%と続く。このように地球にとって非常に重要な元素である鉄・硅素と生物の関係を見てみる。

~海の歴史~

46億年前の地球の誕生以来、地球の冷却と共に約40億 年前に海洋が生まれ、その後約35億年前に最初の生命が誕生した。約27億年前には藍藻類が登場し、藍藻類の誕生は大陸と海洋の形成に大きい役割を果たした。藍藻類は二酸化炭素を吸収し酸素を放出したため、還元状態にあった海洋は大きく変化を遂げて行くことになった。溶解していた大量の鉄は酸化され不溶化し海底に堆積した。現在採掘されている縞状鉄鉱床である。ほとんどの鉄が沈殿堆積したあと、剰余の酸素は大気中に放出され大気圏酸素濃度が上昇し始め、生物の陸上進出を可能にした。約19億年前に火山活 動が活発になり大きい大陸が形成された。ゴンドワナ大陸に先立つ最初の大陸ヌーナ大陸である。このころ真核生物が出現した。このように生物の関与の中で海水中の溶存成分濃度は変化し、約2億年前に至り主要成分組成は定常状態になり、以降一定に保たれている。

~海水の組成~

なるほど海の主要11成分組成は一定に保たれており、川から流入する元素の海での平均滞留時間から見ても、最も短い炭酸水素イオンで8万年、最も長い臭素イオンで1億年と算出され、深層水の混合が1000年単位であることから成分組成は非常に安定であると言える。他の微量成分も多くは1万年以上の滞留時間を持っているが、ここで取り上げる鉄は100 年程度と短い。また平均滞留時間1000年以上でも濃度の均一性を保証するものではない。燐、硅素、窒素などは海域での生物利用が活発であるため不均一な分布となる。 このように窒素、燐、硅素、鉄は海洋生物に吸収されるため表層域では濃度は低くなり、生物が沈降分解する間保留するため深層域で高濃度を示すこととなる。海洋生物内での滞留時間は物理化学作用による滞留時間に較べると遙かに短い。窒素と燐は非保存性の栄養塩として広く認識され、栄養化問題や生物一次生産の重要指標となっているが、硅素と鉄に関して重要性の認識は低く、断片的な研究成果が散見されるに過ぎない。

~硅素と鉄~

ここでは人間活動による海洋環境劣化の“つけ”として、今後の研究が期待されている硅素と鉄に目を注ぐ。先述したように硅素と鉄は海洋で生物の関与によって不均一成分としての挙動を示す。沿岸域では硅素も鉄も陸上そして海底層から大量に供給されるため、生物活動に関与するほど欠乏することはなく、生物生育の制限物質となることは先ずない。ただ流入河川の少ない内海域沖などで発生した珪藻類の赤潮時に硅素が枯渇しているとの報告はある。鉄に関しても直接的な調査結果資料は見ないが鉄不足により生物生産が低い海域があること、生物生産力を増強するため鉄を大量に海に散布する構想など、近年注目を浴びている。また海水への鉄の溶解度は低く、海水中に存在する鉄の多くは錯体鉄として生物活性に関与しているとの重要な成果が報告されている。 珪藻類にとって硅素は細胞の骨格を形成する必須成分で、硅素の枯渇環境で珪藻は増殖し得ない。沿岸域では珪素が枯渇することはほとんどないため硅素が優占することが多く、硅酸塩濃度が減少し他の栄養塩類が多いときには渦鞭 毛藻類、ラフィド藻類が優占し魚介類の成育を阻害すること がある。近年、内海域では秋季から春季にかけての大型珪 藻類の異常発生が養殖のり生育を阻害し大きい問題となっている。また硅素は陸上植物にとっても非常に重要な成分で、ことにイネ科植物の骨格形成元素として必須で、イネ藁の10~20%、藁灰の50%を硅酸が占めている。生物界で鉄は非常に重要であらゆる生物が鉄を必須とする。鉄溶解度の低い畑などで育てた植物は成長が抑制されビタミンA不足で黄変するし、藻類も微量の鉄を必須とし、枯渇した環境では一次生産力が著しく低下する。このように硅素も鉄も生物界では非常に重要で、今後その存在量やその代謝を十分に把握対応する必要がある。また枯渇した場合の対策などについても研究を進める必要がある。 筆者は硅素もそして鉄も、陸域からの供給が不足した場合、 海底土や陸水に多量に含まれる硅素や鉄錯体を効率よく利 用することが非常に重要なことと考えている。その技術開発が望まれる。

おすすめの記事:

    None Found

関連記事

ページ上部へ戻る