教育・研究機関における高速多量分析装置の導入

東京農業大学 土壌肥料学研究室
助教 大島宏行

研究室の紹介

私が所属している東京農業大学土壌肥料学研究室は、初代学長横井時敬先生の長男である横井利直先生により昭和33年(1958年)に土壌学研究室として創設されました。その後名称変更を経て現在に至っています。横井先生は戦後の開拓事業の推進に積極的にかかわってこられ、全国各地の開拓予定地原野の土壌調査をおこなってきました。当時の多くの学生は、夏休みには土壌調査の補助員として全国各地に足を運び、2~3数週間かけて調査を行い、数百点の土壌を採取してきたそうです。その後には分析作業が待っていました。分析数は全国の大学ばかりでなく国公立の農業試験場などより断然多かったようです。そのような状況であったため、本研究室では分析の迅速化が検討されてきました。そして当時としては最新・最速の分析法を開発してきました。横井先生が開発した土壌分析方法の一部は現在でも利用しています。昭和50年頃の土壌分析用機器としてはpH計や比色計であり、その後に原子吸光分析が普及してきました。私が研究室に入室した平成13年には、現在の大学や大規模な土壌分析施設において、分析機器の主流になっているICP 発光分光分析装置やフローインジェクション分析装置(FIA)がすでに導入されていました。いずれの機器も使い方は煩雑であり高価ですが、迅速・精密な分析が可能です。そのような機器を使い、卒業論文の研究や園芸土壌を中心とした土壌診断のため、年間数千点の土壌分析が実施されていました。
今の土壌肥料学研究室には無機元素を中心に多くの分析機器が導入されており、おそらく高速・精密・多項目な土壌分析ができる国内駆使の研究室です。昨年、機器の更新にあたりBLTEC 社のQuAAtro 39 を導入しましたのでその経緯を紹介させていただきます。

土壌分析への利用状況

「土壌診断」とは「土の健康診断」のようなもので、その役割は、①適正な施肥管理による土壌生産性の向上と農業資材経費の抑制、②土壌環境の保全による食の安心・安全および水域の富栄養化抑制、③リン酸・カリ資源の節約・延命化です。その中の土壌の化学性分析は、土の中に残っている養分量を調べ、どんな成分が不足しているのか、どんな成分か過剰なのかを明らかにします。本研究室でも、年間多くの土壌分析を実施します。その方法は、土壌中の養分をさまざまな溶液で抽出し、それを分析装置で測定します。例えば、土壌中の無機態窒素量を調べるには、1M 塩化カリウム溶液を用います。交換性塩基(カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム)を調べるには、pH7 1M酢酸アンモニウム溶液を用います。OuAAtro 39は、この中で主に無機態窒素(アンモニア態窒素と硝酸態窒素)と可給態リン酸の測定に用います。さらに私たちの研究室では、未利用農業資源の肥料化に関する研究も進めており、肥料が土壌中でどの程度分解され植物に吸収・利用されやすい形態になるのかを調べています。OuAAtro39はこの試験にも使用します。これまでの機器との違い私が本研究室に学生として入室して以降、無機態窒素やリン
酸の測定のため、数種類の機器を使う機会がありました。入室当初はプランジャー式ポンプを用いたFIAです。アンモニア態窒素の測定にはインドフェノールブルー法、硝酸態窒素の測定では銅・カドミウムによる還元法が用いられていました。低濃度でも再現性のよい結果が得られ、窒素肥料の特性を明らかにする実験にも大変よい機器でした。ただ、朝8時から夕方8時まで運転しても100点程度しか分析できないことや廃液の量がやや多いのが欠点です。当時の研究室のスタッフに、「もっと速い分析機器はないのですか」と愚痴を言ったことがありますが、きわめて贅沢なわがままであったと反省しています。
平成16年頃からは、ディスクリート方式を採用している自動化学分析装置も使いました。アンモニア態窒素の測定原理は同じですが、硝酸態窒素の測定では、チタン還元-ナフチルエチレンジアミン法を用いていました。アンモニア態窒素やリン酸の測定では、定量下限がやや高く、肥沃度が高い現在の園芸土壌の診断には十分ですが、水田土壌や低濃のサンプル分析にあまり適しておりませんでした。さらに硝酸態窒素の測定では、抽出液中の水溶性の有機物濃度が高くなると、チタンによるNO3-からNO2-への還元が阻害されてしまうため前処理を行う必要がありました。一方で、測定スピードは一時間当たり240点に達すること、同一抽出液であれば多成分を同時に測定することも可能であること、廃液量が非常に少ないなどのメリットもあります。分析機器には各々の利点、欠点があり目的に応じて2つの機器を使い分ければ、優れた分析が行えることがよくわかりました。

QuAAtro39を導入した理由

私たち大学の研究室が民間の分析機関と異なるのは、毎年新しい学生が分析機器の使い方を一から覚えて使い始めること、使い慣れた学生は一年で卒業してしまうことです。毎年約25名の学生が入室し、4年生では半分以上の学生が土壌分析を必須とする卒論に取り組みます。学生の機器の扱いに得意不得意はありますが、必ず毎年トラブルを起こします。分析機器を使わせるのも教育の一環と考えているので、トラブル解決もまずは学生自身にやってもらいます。作製した試薬は発色するのか、流路は安定しているのか、液漏れはしてないか等々。これまで使用していた上記2種類の分析機器は、反応部位や流路が機器の中にあり目視しにくく発色が確認しにくいこと、手動で機器を操作しにくいこともあり、学生自身でトラブルを解決するにはかなりの慣れが必要でした。OuAAtro39は、気泡分節型連続流れ方式(CFA)を原理とし、流路の大部分が機器の外に出ているため、目視で溶液の流れや試薬の発色を確認しやすいこと、手動で機器を操作しやすい特徴があります。今回この機器を導入しようと決めた理由はここにあります。学生も初めて本機器を使う際は、目の前にチューブが大量に並んでおり、「絶対無理!」って表情をしますが、数回使
用した後にはかなり使いこなせてきます。1時間に最大90サンプルを測定可能で廃液の量も少なく、現在の研究室の土壌分析点数には十分対応できます。消耗品がやや高価であることや、ダイアライザーをつけると低濃度が測定しにくいなど、満点ではありませんが、現状では充分満足して使っています。