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近赤外分光法(NIR)を用いたシステム作りのノウハウ

近赤外分光法(NIR)を用いたシステム作りのノウハウ

近赤外分光法を用いたシステム作りのノウハウ

鹿児島大学農学部 教授 河野澄夫

■ はじめに
近赤外分光法で実用に耐え得るシステムを作るには測定精度が従来の化学分析法のそれとほぼ同じ程度、あるいはそれに近い値であることが要求される。また、近赤外分光法を用いた日常の分析においては、如何にして測定精度の管理を行うかが重要な課題である。ここでは、近赤外分光法を日常の分析に用いるためのシステム作り及びその精度管理に関するいくつかの知見について、サトウキビ搾汁液糖度測定装置の例を参考に挙げながら述べる。

■ 試料のサンプリング
近赤外分光法を日常の分析に用いるためには、汎用検量モデルを作成することが不可欠であり、そのためには未来の試料を代表する標本を集める必要がある。知識としては分かっていても実際に行う場合は忘れがちなことである。偶然入手した試料を用いて検量モデルを作成する場合、試料によっては測定誤差が発生する。サトウキビ搾汁液糖度測定システムの構築の際は、沖縄県及び鹿児島県の両県の数カ所から収穫期の前期・中期・後期に渡ってサンプルが集められた。

■ 適正なスペクトル測定
近赤外分光法で精度の高い検量モデルを作成する重要な要素の一つは「綺麗なスペクトル」を測定することである。ここで言う「綺麗」とはノイズがないという意味ではなく、目的とする情報を含んでいるという意味である。例えば、インタラクタンス法で測定した温州ミカンのスペクトルは「見かけ上綺麗」であるが、可食部である果肉の情報を含んでいない。従って、高度な解析手法を用いて検量モデルを作成してもよい結果は得られない。温州ミカンの場合、透過法を用いて「綺麗なスペクトル」を測定する必要がある。
スペクトル測定方法には、図1に示すように透過法、反射法、透過反射法、及びインタラクタンス法がある。透過法は試料の一方から光を照射し、試料を透過した光を他方から検出する方法で、一般的に液状試料の測定に用いられる。反射法は光源と検出器が試料に対して同じ側に配置されている方法である。試料の表面或いは表面近くの試料内部で拡散反射された光が検出器で検出される。一般的に、粉体試料のスペクトル測定に用いられる。透過反射法は光源と検出器が試料に対して同じ側に配置されている装置において液体試料のスペクトルを測定する場合に用いられる。照射光は試料を透過し、試料を透過した光は試料セルの底部に配置された反射板により反射され、反射板で反射された光は再び試料を透過し、試料を透過した光が検出器により検出される。インタラクタンス法は光源側と検出器側が試料に接触しており、試料の内部で拡散反射された光のみを検出する方法である。図1の例では、光ファイバープローブの外側のリング状の部分から光が照射され、試料内部で拡散反射された光が中心部を経由して検出される。光ファイバープローブが試料に接触していることから、試料表面で反射された光は検出器には達しない。以上のように、スペクトル測定方法にはそれぞれ特徴があり、「綺麗なスペクトル」を測定するには、試料の性状にあった適切なスペクトル測定方法を選択する必要がある。サトウキビ搾汁液糖度測定システムでは、搾汁液のスペクトルが透過反射法により測定された。液体のスペクトル測定では温度を一定にすることが重要であることから、図2に示すオートサンプラーと恒温水槽を用いた測定装置が作成された。

■ 信頼できる化学分析
近赤外分光法は化学分析による値を基準としているため、基準が狂っている場合、化学分析の誤差に引きずられて近赤外分光法の誤差も大きくなる。従って、基準となる化学分析値は正確であることが不可欠である。試料の化学分析は最低でも2回行い、2回の分析値の誤差が所定の値より大きい場合には再度分析を行うことが重要である。サトウキビ糖度測定システムの構築の際も、この方法が採用された。綺麗なスペクトルと信頼できる化学分析を用いれば、通常の解析手法により、汎用検量モデルの作製が可能である。

■ 日常における精度管理
近赤外分光法を日常の分析(ルーチン分析)に用いる場合、日常の装置の保守・点検と測定値の精度確認が重要な課題である。日常の保守・点検では標準試料あるいは標準物質による確認が行われる。小麦のタンパク質測定ではタンパク質含量の既知な試料が標準試料として用いられている。サトウキビ糖度測定システムでは、搾汁液は保存が困難であることから、砂糖のモデル液が標準試料として用いられた。この場合、サトウキビ搾汁液の汎用検量モデルはサトウキビ搾汁液と砂糖モデル液の両方に適合可能となっている。測定値の精度確認は現場の試料の抜き取り検査を行うことにより実施される。サトウキビ搾汁液糖度測定システムの場合、現場で測定された試料が凍結された状態で近赤外管理センターの役割を果たしていた日本食品分析センターへ輸送され、同センターでは近赤外装置の親機でその成分値が測定、現場の測定値と比較され、その誤差が記録された。誤差が大きくなる傾向にある場合は何らかの対策が必要である。

■ おわりに
色々な分野で様々な応用研究が行われている近赤外分光法は、研究のみならず日常分析へ活用する時期にきていると思われる。参考になれば幸いである。

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